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地銀のDXが進まない3つの理由~前編~

こんにちは、メンバーズルーツカンパニー カンパニー社長の神尾です。

私達の元には、日頃より地方銀行様からDXやデジタルマーケティングについてのご相談が届いています。

地域経済の要であり地方企業をあらゆる面から支える地方銀行そのもののDX推進を支援する事は、これからの地域経済の生産性向上には欠かせない取り組みだと考えていますし、「地方企業のデジタル化支援を通じて地域経済の活性化を実現し、持続可能な社会づくりに貢献したい」という私達のビジョンにもとても合致するものですので大変意義を感じて取り組んでいます。

しかし、私が毎週のように地銀ご担当者様とお話をしてきた中で芽生えてきたのは「このままでの状況ではDXを進められるのは一部地銀のみで終わるのではないか?」という危機感ともどかしさです。

本コラムでは、その危機感の元にある”地銀 DXが進まない3つの理由”をお伝えし、単にそれを嘆く・ボヤくだけでなく、多くの地銀デジタル担当の方々が力強く現状をブレークスルーするヒントとなるような、課題解決に向けての考え方や事例を前編・後編の2回に分けてお届けしたいと思います。

地銀のDXが進まない3つの理由

全国に約100ある地方銀行(第二地銀含む)は地域性や事業範囲などにより各社特色が異なるはずですが、ことDX領域の課題ついてはほぼ共通の3つの点に集約されているというのが、これまで20以上の地方銀行の方々と接してきて私が感じたことです。

地銀においてDXが進まない理由は以下の3つです。

1.目標が無いこと

2.実行より戦略的なモノが重視されること

3.内製に誤解があること

1つずつ説明していきたいと思います。

理由1: 目標が無いこと

私が受けるご相談内容を多い順からランキングにすると上位に挙がるのは ・カードローンや投資信託のWeb入会数を増やしたい
・銀行アプリのダウンロード数を増やしたい
といった、いわゆる”攻めのDX” ≒ 顧客コミュニケーションの非対面化の強化とそれに伴うデジタルチャネル経由のビジネス成果向上のお題です。

これらの相談を受ける時、私は必ず
「では、現在の目標値と実績のギャップを教えていただけますか?」
と聞き返します。
すると、大方の回答が、
「目標数は特に決まっていません。」
“ある”とお答え頂いた場合でも
「全体の目標数はありますが、リアルとデジタルで分かれていません。」
「年間の目標数は言われていますが、月次では分かれていません。」
というお答えに留まるケースがほとんどです。

なんと地方銀行においては、デジタルチャネルにおける獲得目標数が設定されていない事がむしろスタンダードなのではないのかと思えるような状況です。

”目標が無い”ことの問題点

目標が無いことについて「問題では無い」と言う人はさすがにいないと思うのですが、
「逆に、他行さんはWebサイト上の目標獲得数など設定されているんですか?」
と聞かれる事があります。
こういった質問が出る背景には、恐らく目標立てることは重要!と認識しつつも、無いことによる弊害にどんなものがあるのかピンと来ていないからなのでしょう。

では、こういう質問をされたらどうでしょう。
目標体重を決めないダイエットは成功すると思いますか?
いかがですか。中には成功する人もいるかも知れませんが、多くの人は成功するイメージは湧きませんよね?
「期限と目標体重を決めること」が、いわゆるダイエットのKGIに当たりますが、どのくらいの体重を目指すか(つまりどのくらい今から減らすことを目指すか?)が分からなければ、どのくらい努力(アクション)すれば良いか分かりません。

逆に言えば、目標が決まっていさえすれば、1日当たりの摂取カロリーの目標や、どのくらい運動をしてカロリーを消費すれば良いのか明確になります。(図1参照)

KGIとKPIの関係-ダイエットの場合
図1:KGIとKPIの関係-ダイエットの場合

この構造と全く同じことが、銀行サイトに置き換えて言うことが出来ます。

例えばカードローンに置き換えてみると図2のようになります。

KGIとKPIの関係-カードローンの場合
図2:KGIとKPIの関係-カードローンの場合

いかがでしょう。もし仮に、このKGIに当たる期限と目標件数が空欄だったら、右側のKPIを考えることはできますでしょうか?決して出来ないと思います。

目標が入ることで、目標に対して何を重要指標(KPI)とすべきか?そして、その先にどんなアクションを取るべきかイメージが湧いてきませんか?
「何をしたら、申込数が上がるの?」
「何をKPIに設定して、数値を追っていくのが適切なの?」
こういった相談もよく頂きますが、それらの前にまず解決すべきは目標(数)を定めること、ということがこれらの図から良く理解頂けるかと思います。

目標設定で生まれる効用

私たちが昨年来支援している某金融系企業のお客様とのデジタル推進プロジェクトにおいても最初に取り組んだ事は、現状分析と目標設定でした。
特に目標設定を行うことによってプロジェクトにおいて以下の効用が表れました。

1.KPIと打ち手が明確になる
どこに課題があるのか(集客か回遊か離脱かetc)、その課題解決のために何をすべきかが明確になりました。

2.共通認識をプロジェクトメンバー間で持てる
それまで印象論で語られていたWebサイトの課題が数値を元に共有されるようになりました。経営層から現場スタッフ、そして我々パートナーまで含めて皆が同じ目線で議論することが出来るようになりました。

3.自主自律的な改善活動へ
一番大きな効用はこれではないかと思います。目標、KPIが無いために、これまで何か改善を行っても「よくなったのか、悪くなったのか分からない」という徒労感があったと思います。現在では、企業側のデジタル部署のメンバー皆さんが自主自律的に施策や改善案を考え取り組んでいらっしゃいます。

このお客様のデジタル推進プロジェクトの1年間の取り組みの結果、月次の獲得件数が前年同月比で200%を超える成果が生まれています。
もちろんこれらの成果は、デジタル上での目標設定を行っただけで生まれた訳ではありませんが、その大きなトリガーになったことは間違いありません。

”目標”はどう決める!?

ここまでの話で、DX推進において目標設定することの重要さを理解頂けたのではないかと思います。
すると、こんな声が聞こえて来そうです。
「これまで目標を設定していないから、どう定めていいのか分からないんですが。。。」
こういった相談を受けた際には「決まらなければ、最終的にはエイヤで目標数値を決めてしまいましょう。」と私は答えています。

もちろん過去のデータやリアルのデータ(月の推移など)、業界・業種の外部データなど参考に出来るものはなるべく集めて目標をシミュレーションをする事は私達もしますし、やるべきだと思います。
しかし、あまり過去のデータが無い場合には何が妥当な目標値なのかは誰にも分かりません。そして、デジタルに本腰を入れて取り組むこと自体が未知の領域へのチャレンジだ、という地銀は多いと思うのです。
であれば、そのチャレンジで「このくらいは獲りたい」「ベースを上げたい」という意志に基づいて設定してみる事が大事ではないかと考えます。

そしてこれまでお伝えしたように「目標の正確さ」ではなく「目標があること」が重要なのですから、初期に目標が無い状態を脱するだけでまずは十分です。
(目標が大きすぎた場合にはその後のPDCAで正に見直していけばよいのです。)

余談ですが、なぜ目標が無いのか?と複数の行員の方にお伺いしたところ、
「銀行員は目標達成できないと×(バツ)がつくから設定しないんだ」というような本当とも嘘ともつかないお答えを頂いたことがあります。

次回は、2つ目”実行より戦略的なモノが重視されること”と3つ目”内製に誤解があること”についてお話したいと思います。
ここまでお読みいただきありがとうございました。

続編:地銀のDXが進まない3つの理由~後編~

執筆 = 神尾 武志

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