地銀のDXが進まない3つの理由_後編
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アジャイル組織への変革を目指せ 地銀のDXが進まない3つの理由~後編~

こんにちは、メンバーズルーツカンパニー カンパニー社長の神尾です。
前回の記事から少し時間が経ってしまいましたが、「地銀のDXが進まない”3つの理由”」の後編をお届けします。
(前編はコチラ

前編では地銀のDXを阻害する要因を以下の3つと定義し、1つ目の”目標がないこと”について詳述しました。

地銀のDXが進まない3つの理由
1. 目標が無いこと
2. 実行より戦略的なモノが重視されること
3. 内製に誤解があること

後編では、2つ目と3つ目についてお伝えしたいと思います。
前回もお伝えしていますが、このコラムでは単に問題や課題を上げつらうだけでなく、私共の日頃の活動やそこで得た経験を交えて課題を整理することで、解決に向かう手がかりをお読みの皆さんと一緒に探求できたらと考えていますので、最後までお付き合い頂けたら幸いです。

未知の取組みをつぶす”ニワタマ”フレーズ

2つ目の理由を「実行より戦略的なモノが重視されること」と書きましたが、もう少し嚙み砕いてお伝えすると
”未知の事に対して厳格なROIや事前予測などが求められ、その結果新しい取り組みへのチャレンジが承認されにくい環境にあること”
です。
分かりやすい例があります。

「それをやったらどのくらい収益が上がるの?」
「精緻なシミュレーションを出してROIを説明して」

こんなフレーズ、職場内でよく出てきていませんか?私はこれをニワタマフレーズと呼んでます。
成功することが分かっていればその施策をやらない人はいませんが、やらないとどのくらい成功するかは誰にも分からない、ニワトリとタマゴどっちが先?を論じるのと同じような話だからです。
もちろん、アプリのダウンロードを増やす施策、ローン系商品の申込みを増やす施策などなどデジタル施策については未知の事ばかりという地方銀行が多いことは理解しています。
営利組織として投資対効果の観点で評価・検討することの重要性も分かります。
しかし私は、デジタルの取り組みに関してこのニワタマフレーズが頻出する組織の場合、DXへの姿勢や理解が不十分と言わざるを得ないと考えています。

日本CTO協会が公開しているDX Criteria*では、
・DXとは「私たちは10年後、20年後も今のままで生き残ることができるのだろうか」という企業自らへの問いかけ
「超高速な仮説検証能力」を有する組織へ変革することがその問い(つまりDX)への一つの解
と論じています。
*各社が自社のDXについて、現状を可視化して把握し、改善のための指針を立てられるような基準

「DXとは何か?」を説明する言葉として個人的に大変しっくり来ている提言ですが、この背景には、従来の予測や慣行では通用しない不確実性の高い時代に突入している事があります。特に銀行を利用するユーザー(顧客)の変化を捉えなければなりません。
そしてこの環境下では、過去の法則に沿って精緻な予測を立てることがそもそも難しく、まず経験しその経験を学びに変え変化に適応することの方がより重要度が高いということです。

つまり、地銀DXが進まない2つ目の理由「未知の事に対して厳格なROIや事前予測などが求められ、その結果新しい取り組みへのチャレンジが承認されにくい環境にあること」へいかに対処していくか、への方策としては、
・組織が「DXとは何か?」「DXに取り組む理由/意義」を今一度明確にする
・その上で「生き残るために取り組むべき」と考えるのであれば、変化に飛び込み「経験」することを重んじる
ことが前提として必要であり、具体的な処方箋としては、
組織として最大限許容できるリスクを設定しながら、小さなところからでも経験を積むところからトライする、ということだと考えます。

例えると、地方への移住を望む夫婦が、いきなり土地を探し家を建て現在の住まいを売却するのではなく、まずは良さそうな場所を見つけ、借家を探し、週末田舎暮らしから始めて自分たちにフィットするかどうか(成果があるかどうか)を見極めるような感じでしょうか。
少額からでも取り組めて効果測定が出来るのが従来のメディア・チャネルと違うデジタルの良い面でもあります。
いかに効率的にスピーディーに経験し学びを得ることが出来るか。
これが出来る組織・企業(地方銀行)がDXを競争力にしていくのだと思います。

DX内製=全て自行でやることか?

次に地銀のDXが進まない理由の3つ目「内製に誤解があること」についてお話します。
私どもが日々お会いしている地銀の方とDXの推進体制についてお伺いすると8割9割方、「うちは基本内製の方針なので」という回答が返ってきます。
企業の成長に関わるデジタル領域、銀行で言えばインターネットバンキングやスマートフォンアプリにおける顧客体験の良し悪しなどは収益に関わる競争優位に直結した部分ですので、企業としては出来るだけ内製で取り組むべき領域であることは間違いありません。

右側の攻めのIT投資領域が企業が内製すべき領域(画像:DX Criteriaから転載)

しかし、内製=全て行員スタッフで取り組むべき、と捉えるとDX推進に苦戦するかもしれません。
銀行員の皆さんは銀行業務あるいは多様な銀行サービスについてのプロではありますが、デジタルのプロではありませんから、一朝一夕に完全に自前でDX推進を行うことが難しいからです。
こういうと、
「そんなことは百も承知だ。だから、デジタル人材の中途採用をしているんだ!」
とお叱りの言葉を頂きそうです。
しかし今、デジタル人材は空前の売り手市場にあり、採用に苦戦している企業は多いのではないでしょうか?
※Dodaエージェントサービス 発表の転職求人倍率レポート(2021年7月)では、技術系(IT・通信)職の求人倍率は9倍を超えておりダントツの激戦人材です。

また仮に例え1人が採用を出来たとしても、DX推進を自走できる組織づくりの実現までには長い道程で、時間もかなり掛かりそうです。
これまで野球しかしてこなかったチームの中に、サッカー選手の自分が1人ポンと入れられて「なるべく早く一人前のサッカーチームにしてくれ!」と言われた時を想像してみて頂けるとその難しさが分かると思います。

ですので、DX推進については内製を理想としつつ現実にそれが難しい状況を踏まえて、どのようにその人材・体制を整えるか?が実はDXの成否の核心だと捉えています。

これからの内製の在り方

では、DXを推進する体制・組織を地銀はどうやって構築していけば良いのか?
地銀DXの先駆者として取り上げられることの多い北國銀行の取り組みにヒントがありそうです。
北國銀行さんは自行の書籍の中で、DX推進のポイントを
“オーナーシップをもって自前の開発部隊を保有し、その上でパートナーと共同で任務を遂行すること”
(出典:コンサルティングバンク×キャッシュレスバンク×クラウドバンク 北國銀行 ※私のブックレビューはコチラ。)
と述べていました。
これは、内製かどうかは業務そのものを自行員で全てやるかどうかではなく、自分たちが主体となりあらゆることに責任をもって遂行する意思・姿勢があるかないかだ、と捉えているのだと思います。そして自分たちが確かなデジタル技術やこれからのシステム開発の在り方であるアジャイル開発の手法を身に着け、デジタルと変化に適応できる組織になるために、信頼できるパートナーと取り組み、その協働の中で自行にノウハウを蓄え行員自身のスキルアップを図っていく様子が描かれています。
パートナーの活用というとこれまで、「丸投げ」「自分たちに何も残らない」「ブラックボックス」といった印象があったことは事実ですが、これからは、透明性高く自行内製かのように協働できる新しいパートナーシップを築けるかが、多くの地銀にとってDX内製化が出来るかどうかの鍵だと私は考えています。

アジャイル組織への変革が地域経済の発展に

さて、前編とこの後編で地銀DXが進まない3つの理由について、私共の経験や知識を総合して、その課題の所在と対処について述べてきました。
要約すると以下のようになると思います。

地銀DXを推進することとは、
確かな目標を定めながら、データに基づいた意思決定をし、
緻密な計画とリスクを重んじることよりも小さな経験とトライ&エラーを重視するマインドで、
変化に対応する機動的なチームをパートナーの力も借りながら構築し、
自行の組織力に変えていくこと
です。

これは地銀そのものの経営や組織運営の在り方が機動的になり、変化に強い組織になることであり、それが出来た銀行のみがデジタルを活用した超高速な仮説検証能力を手にし競争力を高めることになるだろう、ということです。
つまり、自己組織化されたアジャイルな経営を行う組織になるという事です。

組織論の方面から金融機関の変革の必要性を提言している「金融機関のしなやかな変革 – 2020年 きんざい」でも、銀行がアジャイルな組織へ変化していく意義や必要性が詳述されています。この本では、中央集権型よりも自立分権型、ピラミッド型よりもフラット型の組織づくりを推進した結果デジタルの活用でも成功を収めている金融機関として、スウェーデンのハンデルス銀行やカナダのバンシティ銀行の事例が紹介されています。
そしてそれらの事例では、結果的に地域金融機関が顧客主語のアジャイル組織に変革したことで地域の企業への支援や個人顧客へのサービスが磨かれ地域に欠かせない存在になっていることが伺えます。

”地銀のアジャイル組織への変革が地銀DXを実現し、その先に地域経済の発展がある。”
単に目先のデジタル化の実行とそれによる利益だけを求めるのでなく、これまでの常識に囚われた損得勘定でなく、変化に適応したアジャイル組織へのチャレンジ。
このことが、これからの地銀DX推進のキーワードになるでしょう。

執筆 = 神尾武志

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